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chiharuf

割り切れないことの尊さ

ここ数日、めっきり涼しく(というかもはや寒く)なってしまい。

私はまだそこかしこで声の聞こえてくる蝉たちのことを心配しています。ここ数日、なんだかバタバタしていて落ち着いてPCに向かっているのは夜23時。あっという間に現れた秋の虫たちの声を聞きながらこれを書いています。今年は季節が予定通り回ることが、頼もしくもあり、置いてきぼりのような気持ちにもなる。

年を重ねれば重ねるほど、「割り切れないことの尊さ」について思う。

若い頃は、というか自分の性格なんだろうけど、何かと白黒つけることをヨシとし、それはもう今考えてもしんどい生き方をしていたなぁと。むしろ、世界が複雑だからこそ白と黒を希求していたのかもしれないけれど。でも時間を重ねて色々なものをみていくと、当然のことながら物事はそんなにシンプルではないことの方が多いし、それに対して割り切れるほど人間のこころも単純ではない。

何かで読んだ本で、古くから日本には「狸や狐に化かされる」という言葉があるように(もちろん本当に化かされているわけではない)、時として起こる不測の事態や、何かの枠組みから外れてしまった対象を、わからないまま(もしくは未解決のまま)にしながら、社会生活を運営していくためのある種の知恵であった・・というようなことを知った。これは自然との対峙ではなく、多くの場面で共存を選んできた日本らしさでもあると私は思う。(普通は八百万も神様いないもんね)なるほど〜。

いま起きているあらゆる問題を眺めても、人間の力で白黒つけて解決できることって本当はどれぐらいあるんだろう、と思う。私たちはなんだか震災やコロナが起こる前まで、とても大きな思い違いをしてしまっていたように思う、まるで人間が世界をコントロールできているかのような。

そういえば、欧米の言語と比較しても主語を省略できたり(自分と社会が同化されやすい)、何かと主語や目的が曖昧になりやすく「行間を読む」「阿吽」という性質を強く持つ日本語では、割り切れなさを一旦置いておくための表現は特に多いように思うし、そもそも割り切ろうとしていない姿勢を強く感じる。日常会話でも、基本的に自分の意見を述べ合う欧米での会話に対して、日本では一方が相槌を打っているだけというケースはとても多いし(そして相槌はYesもNoも、無関心ですら内包でしてしまう)、アンケートでも「どちらでもない」「普通」という回答があるのは多分日本だけだろう。というかそもそも主語を省略してしまえる時点で、かなりの割り切れなさを残すことができてしまう。(フランス語では、C'est la vie. に近いニュアンスを感じる)

これって、このまま仕事をしていると本当に大変なことが多いので(誰がやるの?いつまでに?が不明確になりすぎる)、私の仕事は英語的だと自分では感じているんだけど、最近はその「日本語的」な曖昧さ、割り切れなさを残しておけるということが、こといまのような時代においてはある種の強さにもなりうるんじゃないか、と思い始めている。

主語や目的がより明確になりやすい文化や特にそれを得意とするオンラインの世界は、細部まで突き詰められ白黒つけやすいが故に(英語ではBlack and Whiteなのも面白い)、衝突せざるを得ない局面が出てくる。頭の中で考えた論では正しいけれど、100%その通りに行かないのが人間であり社会であり、何もかも0か100かを求めてしまうと今度は別の何かが破綻してしまうことを、養老先生は独自の「エントロピー理論」で説かれていたのだと理解している。対して、「狸&狐に化かされた」と一旦、対象と距離をとっておくことのできる文化は、すぐに解決することは難しいかもしれないけれど、とにかく問題を一旦保留して先に進むことができる。(永遠に距離をとっていても問題かもしれないけれど)これって、実はすごいことなんじゃないか。これからのあり方において大きなヒントになる気がして、今これを書いていて興奮しています。笑

毒性のあるものを時間や発酵を味方にして、自分たちの栄養源に変えてきてしまった日本の食も、どこかでこの一旦対象と距離を置いておけることが、強く関係しているんじゃないか。じゃないと、ふぐなんて最初の犠牲者が出た時点で本来はNGリストに入るべきだろうし、生きる糧を腐らせかねない菌類を味方につけて発酵食品なんか作らないと思う。

そんなことを考えいたら、ちょうど聴いていた音楽が原田郁子さん&忌野清志郎さんの「銀河」。

その歌詞が、いまの考えを後押ししてくれるようでした。

僕らは銀河の星つぶだよ 遥かな銀河の星つぶだよ

「わからない」という名の 銀河を泳いで渡る 星つぶだよ

(原田郁子&忌野清志郎「銀河」より)

前回も書いたけれど、わからないって、全然大丈夫。

もっとわからないことに真正面からぶつかっていきたい。

とはいえ、割り切らないと進めない局面も必ずあるので、結局はそのバランスなのかなぁ。

今日の講義の準備に戻りま〜す。

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