美徳とはなにか
敬愛してやまない、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリ トゥ監督の作品。
相変わらず面白かった!
いつもは時空を超えて〜湿度高い〜重力重め〜の作品が多いけど、今回は軽快でテンポよく全編・超絶ロングショット(1回の長回しで撮る撮影手法)風、であたかもその作中で起こるすべてを”観客"として目撃するかのような体験ができる作品。(撮影監督は「ゼロ・グラビティ」のエマニュエル・ルベツキ。メキシコ人天才監督タッグ)
このロングショット、実際にはもちろんすべてを1回の長回しで撮っているわけではないんだけどとにかくすごい。カット割りと構図内に映るすべてが徹底的に計算し尽くされる通常のカットとは一線を画し、否が応でも緊迫した状況(ストーリー)の目撃者にされてしまうような監督の「圧」と、スリルがある。(実際には長回し”風”なので、単なる長回しより高度な撮影&編集技術が必要だったそうだけど)
「LALALAND」のエマ・ストーンも、こちらの役の方が素に近いのでは?と勝手に思ってしまうほどちょいワルな自然体。
ただ、全編を通してなんというかお茶目でユニーク。
主人公は過去の栄光にすがりつき、捲土重来を目指し文字通り七転八倒しているが、パンツ一丁で街中を駆け抜けたり、パンツ一丁の相手に本気で殴りかかったり。なんとも監督の登場人物たちへの愛情(とちょっと小馬鹿感?)が伝わってくる。
ストーリーを考察するときにふと気になるのがタイトルで、
・原題
BIRDMAN OR (the unexpected virtue of ignorance)
・邦題
バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
文字通り、「ignorance」は無知で良いとしても「virtue」は、奇跡というより美徳が正しいのかなと思う。ストーリーを踏まえても、「無知かもしれないけどがむしゃらに、過去の自分取り戻してやるぜ!」
と躍起になっている愛おしい主人公へ監督の愛情が注がれているので、結果が求められる奇跡というよりはむしろ「賞賛されるべき美徳」として捉えた方が自然なのかなと。*実際に、作中で主人公は目に見えて成果をあげていない。が、もしかしたらエンディングの捉え方を意識した邦題になっているのかな?
無知がもたらす賞賛されるべき「美徳」、それは結果を求められる「奇跡」よりももっと身近で、情熱的で、ちょっと馬鹿かもしれないけど愛おしい。
「奇跡なんか起こすよりも美徳を重んじる人であれ」、とイニャリトゥ監督に語りかけられているようなのでした。